「FP資格を取ったら、副業ができるようになる」
SNSや資格予備校の広告で、そんな言葉を目にしたことがあるかもしれません。
確かに、ファイナンシャル・プランナーという資格は、お金の専門家として、個人の悩みやライフプランに寄り添える素晴らしいものです。
しかし、実際に資格を取得し、いざ副業を始めようとしたとき、多くの会社員FPが壁にぶつかり、手を止めてしまいます。
「思っていたのと違う」
「資格があれば、もっと簡単に仕事が見つかると思っていたのに」
今日は、少し冷めた視点かもしれませんが、FP資格と副業の「現実」についてお話しします。
これは、あなたを挫折させるための話ではありません。
むしろ、無駄な回り道を避け、長く資格と付き合っていくために知っておくべき「前提」の話です。
なぜFP資格は「副業向き」と言われるのか
そもそも、なぜFP資格はこれほどまでに「副業におすすめ」と言われるのでしょうか。
そこには、いくつかの合理的な理由があります。
まず、「知識が体系化されている」点です。
FPの試験範囲は、年金、保険、資産運用、タックス、不動産、相続と、人生に必要なお金の知識を網羅しています。この広さは、他の資格にはない強みです。
次に、「国家資格としての信用」です。
FP技能士は国家資格であり、名刺やプロフィールに書くだけで一定の信頼感を与えます。特に金融機関に属さない独立系の立場は、中立的なアドバイザーとして重宝されやすい傾向にあります。
そして、「在宅・個人で完結しやすい」点です。
執筆や相談業務、セミナー講師など、FPの仕事の多くはパソコン一台あれば始められます。在庫を抱える必要もなく、初期費用がかからないため、会社員の副業としてスタートしやすいのは事実です。
会社員FPが直面する3つの現実
しかし、これらの「メリット」は、あくまで入り口の話に過ぎません。
実際に副業として動き出したとき、会社員FPの前には3つの現実的な壁が立ちはだかります。
時間の壁
副業に割ける時間は、当然ながら本業以外の時間に限られます。
平日の夜、または休日。限られた時間の中で、質の高いアウトプットを出さなければなりません。
FPの勉強は「暗記」が中心でしたが、実務や副業は「思考」が中心です。
相談者の状況を分析し、最適なプランを練り上げる。あるいは、正確な知識に基づいて記事を執筆する。これには想像以上に頭と時間を使います。
「1日1時間あればできる」といった甘い言葉を信じて始めると、本業との両立に疲弊し、早々に継続が難しくなります。
単価の壁
「資格がある=高単価」というわけではありません。
FP資格を持っている人は、世の中に数十万人います。単に「FPです」というだけでは、希少価値は生まれません。
クラウドソーシングなどで募集されているFP案件の多くは、驚くほど低単価です。
「資格手当」のように自動的に収入が増えるわけではなく、自分のスキルと実績で単価交渉をしなければならない。
この厳しさに直面し、「割に合わない」と感じて撤退する人が後を絶ちません。
信用の壁
資格は信用の「入り口」にはなりますが、それだけで仕事が取れるわけではありません。
クライアントや相談者が求めているのは、「資格を持っている人」ではなく、「自分の悩みを解決してくれる人」です。
実務経験のないペーパードライバーのFPに、人生を左右するお金の相談をするでしょうか。
「資格はあるけれど、実績がない」。このジレンマをどう乗り越えるか。ここが最大の難所であり、多くの人が立ち尽くしてしまうポイントです。
「向いていない」のではなく「期待がズレている」
ここまで読んで、「やっぱりFPは副業に向いていないのか」と思われたかもしれません。
しかし、そう結論づけるのは早計です。
問題は、FP資格そのものにあるのではありません。
「資格を取れば、すぐに稼げるようになる」という期待値のズレにあります。
FP資格は、自動的にお金を生み出す「収益装置」ではありません。
あくまで、お金に関する知識を体系的に整理した「OS(基本ソフト)」のようなものです。
そのOSを使って、どんなアプリを動かすか、どんな価値を生み出すかは、あなた次第なのです。
「副業に向いていない」のではなく、「即金性を求めすぎている」だけかもしれません。
あるいは、「誰かが仕事を用意してくれる」という受け身の姿勢が、ミスマッチを起こしているのかもしれません。
それでもFP資格を活かせる人の共通点
では、会社員でありながら、FP資格を上手に活かしている人は何が違うのでしょうか。
具体的なノウハウは割愛しますが、彼らには共通した「スタンス」があります。
まず、「いきなり稼ごうとしない」ことです。
最初の半年や1年は、収益よりも「経験」や「信頼」を積み上げる期間と割り切っています。焦って安売り案件に飛びつくことなく、じっくりと自分の土台を作っています。
次に、「長期視点で使い道を考えている」ことです。
副業収入そのものだけでなく、本業でのスキルアップや、自身の家計改善、あるいは将来の独立に向けた布石として、資格を多角的に活用しています。
そして何より、「本業・経験・発信と結びつけている」ことです。
単なる「FP」としてではなく、「不動産に詳しいFP」「子育て経験のあるFP」「IT業界のFP」など、自分だけのタグを掛け合わせることで、独自のポジションを築いています。
まとめ
FP資格は、「副業向き/不向き」という単純な二元論で語れるものではありません。
それは、使い方次第で最強の武器にもなれば、ただの飾りにもなるツールです。
多くの人が、この「使い方の発想」で迷子になってしまいます。
資格を取ったのに、なぜ仕事にならないのか。
どこで判断を間違えてしまったのか。
この構造的な問題については、年明けにあらためて深く掘り下げてみたいと思います。
今は焦らず、ご自身の資格との向き合い方を、少しだけ見直す時間にしてみてください。

コメント