「FP2級の実技試験は合格率が高いから、学科さえ受かれば合格したも同然だ」
これから受験される方や、学科試験の学習が一通り終わった方から、このような声を耳にすることがあります。確かに、公表されているデータだけを見れば、学科試験よりも実技試験の方が高い合格率で推移していることは事実です。
しかし、筆者の周囲を見渡しても、SNS上の声を拾っても、「学科は受かったけれど実技で落ちた」という方は決して少なくありません。むしろ、実技試験特有の「罠」にかかり、複数回受験することになるケースも散見されます。
なぜ、「数字上は簡単なはずの試験」で不合格になってしまうのでしょうか。
本記事では、「実技試験が難しいかどうか」という難易度論ではなく、「なぜ合格率が高いのに落ちる人が出るのか」という構造的な理由について、実務経験者の視点から冷静に整理していきます。
この「ズレ」に気づくことこそが、合格への最短ルートです。
FP2級の実技試験は本当に「簡単」なのか?
まず、「実技試験は簡単である」という説の根拠となる合格率について、その背景を少し掘り下げて考えてみましょう。
合格率だけを見ると簡単に見える背景
一般的に、FP2級の実技試験の合格率は、学科試験よりも高い数値が出ます。これだけを見ると、「実技の方が問題が簡単なんだ」と錯覚してしまいがちです。
しかし、ここには「受験者層(母集団)の違い」という大きなバイアスがかかっています。
数字だけでは見えない前提条件
FP2級の実技試験を受験する人の多くは、以下のいずれかに該当します。
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FP3級に合格し、基礎知識が既に固まっている人
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FP2級の学科試験に向けた学習を一通り終えている人
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過去に学科試験だけ合格し、今回は実技試験のみに集中して対策してきた人
つまり、全くの初学者が記念受験をするようなケースは稀であり、受験者のレベルそのものが、学科試験時点よりも高くなっているのです。「訓練された集団」が受けているから合格率が高いのであって、試験問題そのものが単純で簡単だと言い切れるわけではありません。
この前提を見落とし、「みんな受かっているから自分も大丈夫だろう」と油断することこそが、最初にして最大のリスクと言えるでしょう。
FP2級実技で落ちる人が一定数出る理由
では、ある程度の基礎知識がある受験者たちが、なぜ実技試験で躓いてしまうのでしょうか。それは、実技試験が「学科試験の延長線上」にあると考えてしまうことに起因します。
「難易度が高い」のではなく「勘違いしやすい」試験である点
実技試験で不合格になる方の多くは、知識が不足しているわけではありません。実際、学科試験では8割以上の高得点を取っている人が、実技で不合格になることは珍しくないのです。
これは、試験の難易度の問題ではなく、求められている「頭の使い方」が違うことに気づいていないケースがほとんどです。
学科試験と実技試験で求められている思考の違い
学科試験は、極端に言えば「知っているか、知らないか」を問う試験です。4つの選択肢の中から正解を選ぶ作業は、インプットした知識の正確なアウトプット(再生)確認と言えます。
一方、実技試験は「その知識を使って、目の前の事例を処理できるか」を問います。
例えば、「建ぺい率の定義」を知っていても(学科)、「複雑な形状の土地と前面道路の条件を与えられたときに、建築面積の上限を計算できるか」(実技)は別の能力です。この「知識の変換」がスムーズに行かないと、どれだけ単語を暗記していても点数には結びつきません。
合格率が高いのに落ちる人の典型パターン
具体的に、どのような思考プロセスで不合格になってしまうのか、典型的なパターンをいくつか挙げてみます。ご自身の学習状況と照らし合わせてみてください。
計算問題を作業として処理してしまうケース
実技試験には計算問題が必須ですが、公式を丸暗記して「数字を当てはめる作業」として処理している人は危険です。
例えば、年金や税金の計算において、「なぜその控除を引くのか」「なぜその係数を使うのか」という理屈を理解せずに手順だけ覚えていると、問題文の条件が少し変わっただけで対応できなくなります。「いつもと同じパターンの問題に見えたのに、答えが合わなかった」という場合、この罠に陥っている可能性が高いでしょう。
問題文の条件・前提を読み飛ばしてしまうケース
実技試験の最大の特徴は、問題文の中に散りばめられた「固有の条件」です。
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「妻は同居しているものとする」
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「障害等級は1級とする」
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「消費税は考慮しないものとする」
こうした小さな前提条件を見落とすと、計算式自体が合っていても、最終的な解答は不正解になります。学科試験のように即答しようと焦るあまり、こうした条件設定を読み飛ばしてしまうミスは、実力がある人ほどやりがちです。
過去問を「回した数」だけで安心してしまう危険性
「過去問を5年分、3周回しました」という方でも、落ちることはあります。
過去問演習は非常に有効ですが、それを「答えを覚える作業」にしてしまっては意味がありません。同じ問題が出れば解けるけれど、数値や家族構成が変わった初見の問題には手が出ない。これは、過去問を「解いた数」に満足してしまい、「解き方のプロセス」が身についていない典型例です。
FP2級実技の本質的な難しさ
ここまでの内容を踏まえると、FP2級実技の本質的な難しさが見えてきます。
知識があっても点数にならない理由
実技試験が難しいと感じる真の理由は、「曖昧な理解が通用しない」点にあります。
マークシート方式の学科試験であれば、なんとなくの消去法で正解できることもあります。しかし、実技試験、特に記述や計算を伴う問題では、プロセスの一つでも間違えれば0点になることもあります。「9割わかっている」だけでは不十分で、「最後まで正しく完結させる力」が求められるのです。
実技試験が見ているのは「判断力」であること
FP(ファイナンシャル・プランナー)は、顧客の相談に乗る実務家です。実技試験が試しているのは、単なる知識量ではなく、「顧客(問題文)の状況に合わせて、適切なルールを適用できるか」という判断力です。
試験作成者は、受験者が「機械的に暗記しているだけ」か、「意味を理解して使えているか」を見抜くために、意図的にひっかけや条件分岐を用意しています。これに対処するには、知識の量ではなく、知識の質を高める必要があります。
FP2級実技に受かる人の共通点
逆に言えば、この試験の性質さえ理解していれば、恐れることはありません。安定して合格点を取る人には、共通した特徴があります。
解答前に論点を整理してから手を動かしている
合格する人は、問題文を見た瞬間に電卓を叩き始めません。まずは問題文全体を読み、「今回は何が問われているのか」「特例の適用要件満たしているか」といった論点を整理してから解答に着手します。
急がば回れ。この数秒の確認作業が、ケアレスミスを防ぎ、結果的に解答時間を短縮します。
復習の視点が「正解」ではなく「考え方」にある
過去問等の演習時に、正解したか不正解だったかだけに一喜一憂しません。たとえ正解していても、「なぜその答えになるのか」を自分の言葉で説明できるかを確認しています。
「たまたま合っていた」を排除し、再現性のある解き方を確立しているため、本番でどのようなひねった問題が出ても動じることがありません。
まとめ|FP2級実技は難関ではないが油断すると落ちる
FP2級の実技試験について、合格率と実際の難しさのギャップについて解説してきました。
結論として、FP2級の実技試験は決して「理不尽な難問」が出る試験ではありません。しかし、学科試験と同じ感覚で「暗記と過去問の数」だけで乗り切ろうとすると、思わぬ足元をすくわれる試験でもあります。
「合格率が高いから簡単」なのではなく、「正しい準備をした人が多いから合格率が高い」のです。
この違いを理解し、計算プロセスの理解や条件読み取りの精度を高めるトレーニングを行えば、確実に合格ラインに到達できます。まずは、ご自身の学習が「作業」になっていないか、見直すことから始めてみてください。
最後に、これらを踏まえた具体的な学習の進め方について、さらに理解を深めるための記事をご紹介します。
現状の学習方法に不安がある方は、以下の記事で「過去問の正しい活用法」を確認してください。本記事で触れた「思考のズレ」を修正する具体的な手順を解説しています。
▼FP2級の実技対策として、過去問をどう使うべきか
また、どうしても学科試験の感覚が抜けず、実技特有の考え方に馴染めないという方は、以下の記事で試験構造の違いを改めて整理することをおすすめします。
▼学科試験と実技試験の違いを整理した記事




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